『幻夏』太田愛

著者からの冤罪に対するメッセージを受け取めよう
相棒をも手掛ける著者太田愛氏のミステリー小説である『幻夏』
ただのミステリー小説ではなく、登場人物の想いが交錯したり、日本の司法制度にメスを入れたりと、間違いなく傑作だと感じました。
あらすじは、ある日、元検察の大物の孫娘が誘拐される。その現場には奇妙な印が残されていた。それを見た交通課の刑事・相馬は小学生時代の短い一夏の思い出が蘇る。それは、新しく引っ越して来た相馬は水沢兄弟と仲良くなる。しかし、当時の水沢家には父が人殺しという複雑な事情を抱えていたことを知る。挙句の果てに兄の尚は突如、誘拐現場と同じ印を残して姿を消した、というものだ。
尚はなぜ、あの夏姿を消したのか?またなぜ、元検察の大物の孫娘が誘拐されたのか?犯人は誰か?意図を何なのか? が見どころです。
この小説はミステリーとしては勿論面白いです。ですが、私が一番良かった・印象に残ったことは「冤罪」を生み出してしまう日本の体制を小説の中で見事に扱っていることです。ですので本小説では、人に無実の罪を着せてはならないことを意味する言葉「十人の真犯人を逃すとも一人の無辜を罰する勿れ」が数度登場します。
私はこの小説を読んで「冤罪」はその人だけではなく家族をも狂わす。また、「冤罪」と判明した際に、被害者側の人は今まで無実の人に憎悪と怒りをぶつけていたのかとなります。
「冤罪」を撲滅することの大切が身に沁みて分かった小説でした。
『真夜中乙女戦争』F

世界観がジョーカーのようで狂気に満ちた本!
『20代で得た知見』の著者で謎に包まれたF氏の小説。
しかも映画化されるということで、非常に楽しみな1冊でした。
とりあえず、個人的に是非読んで欲しい小説の1つですので、一度手にとって欲しいと思います。
まず、感想を一言で表すと「この内容を映画にするって、一体どうするんだろう?」と良い意味でそう感じました。
『ジョーカー』のような狂気じみた映画になるのではないかと、睨んでいます。なぜなら、内容が過去に類を見ないような小説だったからです。
エピローグ的な部分の最後の文「我々乙女は、戦争をする」で一気に引き込まれ、「戦争」って具体的にどのような戦争なのかと疑問を抱きました。
あらすじは、東京の大学に通う1年生の私はニヒリストと化しており、いわゆる「無キャ」のような存在です。そんな私が奇妙なサークルに入り、「妖」貴妃のような先輩や突如現れた超有脳サイコパスの黒服と出会います。黒服と出会った私は「戦争」に向けて徐々に動き出します。
タイトルに「乙女」とあり、且つ大学生が主人公ということで、森見登美彦の『夜は短し歩けよ乙女』を彷彿とさせるものでしょう。
『真夜中乙女戦争』は森見氏の小説の先が読めないファンタジーの塊のような世界観や高度で美しい文章と似てる所を感じました。
ですが、この小説は森見氏のそれにない「狂気」が強くありました。
こんなラストシーンがあるのかと驚愕と感嘆を覚えたほどです。
また章の初めに挿入されている写真や東京タワーの役割、背景が黒のページがあるなど型破りな要素もあり印象に残りました。
映画が楽しみになりました。
『祈りのカルテ』知念実希人

主人公の人間性には心掴まれた
このミステリー小説の大まかなあらすじは単純でしたが、ドハマリしました。
本小説の概要は研修医の諏訪野良太が、研修期間に内科や皮膚科などを転々として自分の進むべき科を探します。
しかし、一筋縄にはいきません。研修先で何か隠していたり、厄介だったりと一風変わった患者5人を担当することになるのです。その患者の不可解な行動を諏訪野はカルテと親身になり寄り添う姿勢から、原因を突き止めます。
私はこれにハマり、先が気になってページのめくる手が加速しました。
大きな要因としてミステリーとしての面白さに加えて、主人公の患者の目線に寄り添う姿や性根の優しさ、頭のキレの良さなど諏訪野良太の人間として光る、見習うべき言動に心惹かれたからでしょう。
この小説は既にされているかもしれませんが、映画化・ドラマ化されそうな作品でした。
とりあえず、研修医を終えてこれから医師人生を歩む諏訪野良太の姿を見たい。読了後、誰もが私と共感するでしょう。
『明日の食卓』椰月美智子

タイトルからは想像のつかない家族を描いた問題作!
この小説は家族の在り方、実子との関わり方、虐待について考えさせれられました。私は大学生ですので子供はいませんが、そんな私でも心に残る物語でしたので、家庭をもつ保護者の方が読んだら一生忘れない本となるでしょう。
あらすじは、異なる家庭で小学生3年生の「石橋ユウ」を育てる3人の母が交互に描かれます。専業主婦・フリーライター・母子家庭で働き詰めの母とそれぞれ家庭事情が異なります。
物語は初めは順調で明るく和やかな家庭風景が描かれます。しかし、それぞれの歯車が噛み合わなくなり不穏な状況に陥ります。
家庭崩壊が見えた時、3人の母が取った言動とは!?
この小説の他の作品とは異なり、読者を釘付けにするポイントは1ページの文章です。ここでは省略しますが、それを読んでしまったらもう最後まで読まずにはいられません。壮大なアリジゴクが仕掛けらているのです。
読了し振り返ると子育ての難しさについて思い知らせました。小学生3年生の息子とまだまだ小さく可愛い時期ですが、世の中のことが分かりだし手に負えない事態が起こりえます。そんな息子を「母」は愛し真剣に向き合っていきます。ですが、ここに登場する「父」は家事や子育てを妻に任せきっており、不甲斐なさが滲み出ています。父も母も互いに協力しあって家庭生活を育まないといけないと感じました。
もっともっと知られて欲しい小説です。
『新釈 走れメロス 他四篇』森見登美彦

名作 × 森見ワールド を楽しめる全く新しく小説
森見登美彦氏の代表的な小説『四畳半神話大系』『夜は短し歩けよ乙女』は京都を舞台にした一風変わった大学生たちの物語です。それらの中を開くと黒髪の乙女や桃色ブリーフ、自転車にこやか整理軍、図書館警察といった森見登美彦の小説しか絶対に出でこないような要素が多く登場します。
『新釈 走れメロス 他四篇』では、中島敦『山月記』芥川龍之介『藪の中』太宰治『走れメロス』坂口安吾『桜の森の満開の下』『百物語』の五篇が森見ワールド化されています。
どれも良かったですが、特に『走れメロス』では人質の親友のために約束の時間までに戻る努力をするのではなく、絶対に親友を裏切るべく逃げ惑うという真逆の物語になっています。
ですが、それが面白すぎるのです。異なる作品で登場した自転車にこやか整理軍などが登場し、読んでいる側は「あの組織だ!」と過去に読んだ作品の内容を懐かしむことでしょう。
そのためにも、先ほど紹介しました『四畳半神話大系』『夜は短し歩けよ乙女』を読了してから本作を読むとより楽しめるでしょう。
どんな設定であろうが、著者の大学生を描いた小説はその世界にのめり込むほど面白いのです。
『キネマの神様』原田マハ

この小説を読めば絶対に映画が見たくなる!(特に、ニュー・シネマ・パラダイスとフィールド・オブ・ドリームス)
私は読書と同じくらい映画も好きですので、本小説は”最高”でした。
あらすじは、映画は大好きだですが、ギャンブル依存症で多額の借金を抱えて家族を困らせていた主人公・歩の父の映画への愛がキネマの神様を呼び起こし、奇跡と感動を生んだ物語。
歩は父と同じく映画が好きで、大企業でシネマコンプレックスに関するプロジェクトに携わっていましたが、ゴタゴタから辞職します。暇な時期を過ごし、ひょんなことから映画の感想を書きます。それを父が雑誌に投稿したことで、キネマの神様が腰を上げます。
なんやかんやで父は映画ブログを始め、神様が動き出すという流れです。
この小説を読んだら必ず映画の素晴らしさを全身で感じることになるでしょう。特に、歩の父が投稿した映画の感想・考察を読めば、絶対にその映画を見たくなること間違いなしです。
奇跡を目の当たりにでき感動的な小説を読めることだけで栄誉なことですが、それに加えて自分の
中の映画への愛を再興して全盛期を迎えさせてくれるという、強大な力を秘めた小説でした。
映画好きの方は是非ともオススメします。
『青くて痛くて脆い』住野よる

読者の心に響く、主人公の複雑な心境を描いた大学生小説
久々に難しさを感じた小説でした。ですが、難しい分だけ内容の深さは比例しますので、本小説は非常に面白く、登場人物の言動は胸に響きました。
主人公の楓は大学に入って秋好という、自分の理想高々に掲げて生きる俗に言う「痛い」女子と交友を持つことになります。楓は人の意見を否定せず近づき過ぎないようにする信念を持っていました。そんな彼は秋好と共に理想を追い求める「モアイ」というサークルを設立します。しかし、大学生4年生となり虚偽の姿を繕う就活を終えた楓は、肥大化した「モアイ」と関わりもなく、ましてや初めて会った頃の秋好は存在していませんでした。
楓は残りの大学生活を使ってある決断をして行動を始めます。その自分のアイデンティティと何なのか、何がしたかったのか、激動の時期が幕を開けます。
本書の注目部分は楓の「人の意見を否定せず近づきすぎない」という、良く言えば冷静でクール、悪く言えば痛い信条です。そんな彼が秋好という痛い思想の持ち主と出会い触媒となり、モアイを創設しました。
ここで、「痛い思想」と持っているからと言って一概に馬鹿にできないと感じました。その考えは痛いと傍観し見下している人は何も行動を起こせず、その自分に陶酔しているだけです。一方で高い理想を追求するために何らかの行動を起こす人は、絶望も経由しますが結果的に世の中を直接知ることができ、成長できます。
本小説を読んで、彼らの大学生活の残酷さを是非目にして欲しいと思いました。
『護られなかった者たちへ』中山七里

大切な人を護ることができなかったという思いが起こす傑作ミステリー小説
太田愛『幻夏』では冤罪と扱っていたように、ミステリー小説は何かしらのテーマが存在します。この小説は仙台を舞台とし、「生活保護」と「東日本大震災の影響」を扱っています。
特に、生活保護に関する場面は衝撃を覚えました。公務員はひっ迫する予算内で適正な人へ受給させるために奮闘しますが、それが行き過ぎて本来受けるべき人が審査に弾かれてしまうことが起こってしまいます。
実際このようなものか分かりませんが、「生活保護」をこの小説では重要なテーマとして見事に扱われていました。
あらすじは、2件の餓死した人が発見されます。被害者は共に人格者で誰からも怨恨を持たれるはずがないとの証言が続き、操作が難航します。そんな事件が起こった時に、利根という男が出所します。果たして、利根という人物とは?この事件の真相は?
読了後、真相が全て分かり感嘆するミステリー小説特有の快感に加えて、重く深いテーマから「生活保護」について考えさせれるという、本当に心に残るものでした。
映画化もされています(以下の表紙画像に情報あります)が、小説と映画では重きを置いている箇所が異なるということで、両方目にするのが良いと思われました。
『また、同じ夢を見ていた』住野よる

幸せとは何かを探し求める少女を描く、最高傑作と呼べる小説!
今まで読んだ小説の中でトップクラスに感動し、心を揺さぶられました。
主人公は本好きで賢くも生意気で気の強い小学生の女の子で、学校に友達はおらず、そこへ通うのが億劫と感じていました。そんな少女は、尻尾の欠けた猫と出会ってから共に帰宅し、その帰路で世代が異なる女性とお話をする毎日を送ります。季節を売る仕事している女性、手首に傷がある女学生、おばあちゃんの3人です。ある日、国語の授業で「幸せとは何か」考えることになり、少女より人生経験が豊富な賢い女性とお話をしていき、彼女らの言葉が少女の人生を変えていきます。そして、自分の中で答えが見つかった時。。。
という感動的で深イイ物語です。
タイトルにある「夢」から何やらファンタジー的な匂いを帯びていますが、それが意図していることとは?疑問に感じていましたが、それが解決した時の心のザワメキは過去最高の振動だったのではと思う程でした。
また「幸せ」についてのメッセージも深く心に残りましたので、詳しくはこの世界に入って享受してください。
好き嫌いがはっきりする内容かも知れませんが、私の好きな型にピッタリとハマり、後半になってから夢中で読んでしました。
たまにこういう、ずば抜けた感動作に出会えるので小説を読むのを止められないです。小説を読むこととは絶対に当たる宝くじです。どの本も面白く当りのですが、たまに超大当たりの本と出会えるからです。
『流星の絆』東野圭吾

最高峰のヒューマンドラマを展開するミステリー小説!
これはドラマ化されて当然だ! と読了後に思いました。「おかあさんの味」など、味覚は最高の記憶媒体だということも。
読むきっかけは、昔このドラマをチロッと見たことがありましたが、内容は知らなかったからです。
約600ページとかなりの長編小説ですが、あまりの面白さで4日ほどで読み切りました。
あらすじは、3兄妹が幼き頃に彼らだけで流星を見に行って間に両親が何者かに命を奪われます。兄妹は犯人に復讐を誓います。それから10年以上経ちましたが犯人は見つからず、時効を迎えようとします。そんな時、偶然兄妹は犯人を見つけます。しかし、物的証拠がないので策略を練ってその犯人を陥れようと試みます。が、妹の恋心が波乱の展開を巻きおこすのです!
つまり、本小説はミステリーの面よりかは、「恋」や「復讐心」「兄弟愛」など人間の内面を見事に描いたものでした。この3兄妹の絆の深さ、特に妹を思いやる兄たちの姿といったほのぼの感から、策略の行方、犯人・警察との駆け引きなどの緊迫感と様々な雰囲気を読者に味わわせてくれるでしょう。
『手紙』『秘密』『容疑者Xの献身』と東野圭吾氏の人間を描く技術の高さには感服させられました。
読んでいて非常に楽しかった小説でした。
『草枕』夏目漱石

言葉が難しい。けれども、自然描写のレベルが高すぎる夏目漱石の偉大さが分かる小説!
約2年ぶりに夏目漱石を読みました。ここ最近は歴史の浅い小説しか読んでいませんでしたので、難しい単語に慣れておらず、読み進めることに苦心しました。
「智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。」で有名な『草枕』は『坊っちゃん』『三四郎』などと異なり主人公が悟りだす場面がいくつかあり、そこが特に難解でした。
あらすじを見ると、「自然主義や西欧文学の現実主義への批判」が込められているとあり、小説に随筆が加わっているからでしょう。
この小説が凄い点はやはり自然描写です。これが真の自然描写だ!と思わされる、現代の小説にはない難しながらも完璧な文章でした。
小説の舞台となった山奥の桃源郷の景色、主人公が見た情景をありありと目の当たりにできることでしょう。
このような日本が誇る名作を読めば、100年以上前に書かれた小説が今でも読み続けられている、という一種の壮大さを感じられるでしょう。
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『動物農場』ジョージ・オーウェル

ロシア革命を風刺したこの小説、これが現実なのかとおぞましさを感じた
『一九八四年』で世界的に名を馳せるジョージ・オーウェルの傑作小説の1つです。この小説はロシア革命を風刺しており、何かを風刺した小説を読むのは初めてのことでした。権力に溺れた人間の怖さを改めて実感しました。
あらすじは、ある農場で老豚(=ロシア革命を起こしたレーニン)が人間の支配から抜け出して、動物だけの社会を作ろうと人間に対して反乱を起こします。反乱は成功し、七戒を制定し素晴らしい動物社会への一歩を踏み出します。しかし、革命の指導者となった豚ことナポレオンは独裁者(=スターリン)となり、怪しいものを処刑(=粛清)、七戒を自分の都合の良いように改定したりと暴走していきます。このような状態になっても、他の動物はナポレオンの権力には抗えず、、、
といった内容です。
ここで特に興味深いのは「七戒」です。全ての動物は平等、殺しは駄目、禁酒など理想社会実現のための掟です。ですが、過去の独裁者の歴史から分かる通り、そのようなものは勝手に変えられたり、有名無実化したり、と全ては独裁者にプラスになるものになります。
また、知識に乏しい動物たちは饒舌な権力者に上手く言いくるめられていく様は何とも言えない悲しさを覚えます。
このような動物農場における動物たちの姿・感情を見事に表して、ロシア革命の過程が展開されていくこの小説はまさに傑作でした。
本書では『動物農場』以外にも『象を射つ』『絞首刑』『貧しいものの最期』が収録されています。
後者2つでは、題名通り陰鬱で不気味な雰囲気が漂う話で、著者の経験から拡張されているものだと思われます。
この小説を読んだのなら近いうちには『一九八四年』を読むでしょう。いや、読まなければならないでしょう。
『鏡の孤城』辻村深月

心に影がかかっている7人の中学生の心情・言動が繊細に描かれた感動作!
主人公のこころは中学1年生。ですが、訳があって不登校状態になります。ある日、部屋の鏡が光りだし、何と鏡が別世界と接続されます。その中はお城で、この世界を管理する狼のお面を被った少女と6人の中学生がおり、オオカミ少女は3月末までに願いの部屋の鍵を見つけると願いが1つ叶うと言います。集められた7人はなぜ鏡の世界に集められたのか。オオカミの少女は何者なのか。果たして願いは叶うのか。
本小説の注目ポイントはどのような結末を迎えるに加えて、登場人物の心情とそれに伴う些細な反応の記述がトップレベルに見事な所です。
例えば、主人公のこころはコミュニケーション取る際に言葉を慎重に選び相手が不快にならないように、相手に嫌われないよう気を遣う場面
誰かが笑っていたら自分のことを嘲け笑っているのではないかと思う場面
初対面の人と会話をする場面
など多様なシーンで著書の表現力の高さを目の当たりにできます。
印象的なシーンはこころの担任の先生が不登校のこころを問題児とみなして、不登校の原因を探らない・心から親身に寄り添わない場面です。嫌がらせをする加害者は活発で先生に好かれおり、そんな人気女子の言い分で物事を判断します。これが現実で起こっていたら悲しい限りです。
4月に集められた訳あり中学生7人が鏡の中の世界で過ごす1年を経てそれぞれ成長していき、その結果3月に何が起こるのか。ラストは是非読んで欲しい場面ランキングの上位に入るでしょう!
『罪と罰』ドストエフスキー

難しいが一度は読んでおきたい歴史的名作
本小説と言えばドストエフスキー、いやロシア文学の最高傑作でしょう。誰しもが耳にしたことがある『罪と罰』を読まない手はないと思い、奮起して読み始めました。まず、本書を読み終え内容以外の部分で感じたことは
- 夏目漱石の著書(最近読んだ中では『草枕』)のような聞いたことのない単語が滅多にないので読みやすい
- 登場人物の本名が長くて慣れず、誰が誰か分からなくなる
- 所々で頭に入ってこない難解な箇所があった(私の力不足でしょう)
です。
小説としての感想は、主人公ラスコリーニコフの罪を犯してからがよりその世界に引き込まれました。終始陰鬱な世界観でしたが、それを見事に作れるドストエフスキーの業には感服です。またその世界と登場人物の雰囲気が完璧に一致することも読者を引き込むポイントだと感じました。
ラスコリーニコフの大きな罪を犯してしまい罪悪感に苛まれる姿、彼の家族の環境や恋、様々な人物との出会いと討論の内容、そして最後にどのような行動をとるのか、見所満載です。
現代の小説では読むことのできないオーラを放つ世界と深すぎる内容を体感できるので、一種の新鮮さをも感じました。
全1100ページ越えと途中で集中が切れることもありますが、一回読み始めると棄権することはないです。最後までなぜか読破できる、ある種の名作の魅了する力の強さからなのでしょうか?
一度は読んでおきたい小説ですね。ちなみに新潮社の『罪と罰』を読みました。
『カラフル』森絵都

これが本当の全世代が感動する小説!
本小説の裏表紙の内容紹介では、「不朽の名作」とあり、これはとんでもなく心に残る小説では!?という予感は見事的中しました。
あらすじは前世で罪を犯して死んだある魂が、天使の力によりもう一度生きるチャンスを与えられます。魂は自分で命を経ったとある中学生・真の体を借りることになります。しかし、その間に前世の罪を思い出さないといけない制約付きでした。真としての生活は厳しいものでした。それは親の不倫や背が低く格好よくない見た目、クラスでは孤立、恋してる相手はお金のためなら自分の体を売る姿を目撃などです。一方、真には絵を描くことが好きでその時間が唯一の救いでした。
他人の環境だからと割り切って生きていく魂が最後に思うこととは何なのか?
魂が前世で犯した罪とは一体何なのか?
これは間違いなく不朽の名作の一つでした。魂が真として生きてくうちに、人生辛くても楽しいことは・受け止めるべきことが山ほどあることに気づきます。それは、他人の表面ではなく中を見ることの大切さ、親や友達、大まか捉えると人と触れ合うことの重要さなどです。誰もが身に沁みることでしょう。世の中はモノクロに見えていたとしても、直視したら「カラフル」な世界と教えられる、いわば自己啓発的要素と含んだ小説でした。
『本日は、お日柄もよく』原田マハ

スピーチライターという初耳な職業をテーマにした傑作
「本日は、お日柄もよく」というフレーズは結婚式など晴れ舞台におけるスピーチで使用されるらしいですが、私はそれをあまり知らなかったので、「一風変わったタイトルだな」と感じていました。
あらすじは主人公・こと葉は普通のOLで、幼なじみの披露宴での非常に恥ずかしい「やらかし」から人生が激変します。本当にタダのOLがその数カ月後に政権交代を掲げる野党のスピーチライターになるのです!主人公が伝説とされているスピーチライターの元で働き、自分をそして日本を変える姿を目の当たりすることでしょう。
日本ではスピーチの重要性が欧米に比べて軽視されがちです。ですので、学校でもあまり習いませんので、スピーチが苦手という方は多いことでしょう。もちろん、私もそのうちの一人です。
ですが、スピーチの威力は計り知れないものです。歴史を振り返ると、ドイツ国民の思想を操ったヒトラーを始め、「I have a dream」でお馴染みもキング牧師、本小説でも幾度と登場した「Yes, we can」のバラク・オバマなど、ここで挙げている人はスピーチが匠であったからこそ歴史に名を残せたと言っても過言ではありません。
この小説は与党vs野党の戦いにスピーチライターが参戦します。主人公のこと葉やそのライバル、師匠は言葉の持つ力の強さを認識し、彼らが言葉を専門にした仕事に打ち込む姿は今までにない、新しい形のカッコよさがありました。
将来的に披露宴でのスピーチなどを控えている方、この小説を読んでみたらいかがでしょうか?
きっと何か成功するためのヒントを得ることができるでしょう。
『孤狼の血』柚月裕子

主人公の上司・ガミさんは小説の登場人物で屈指の名人物だ!
この小説の読了後、すぐさま続編の『凶犬の眼』を手にとってしまいました。一度読んだらこの世界観は忘れられないでしょう。
映画化された警察と暴力団をテーマにした小説です。舞台は広島の架空都市・呉原で時代は昭和と『仁義なき』を彷彿とさせます。
まず読んだ感想を言いますと、暴力団をテーマにしているため、そこが本当はどのような世界なのか素人には分かりません。何か創作のものからのイメージが植え付けられているだけです。
本書は、親分や若頭、組員の人間関係を鮮明に描き、抗争とその世界の恐ろしさと深さを見事に表現しています。そこに、警察との癒着という衝撃と暴力団が一般人に被害をもたらさないよう正義の活動が繰り広げられるのです。
ですので、『孤狼の血』の世界にどっぷりと浸かってしまいました。
あらすじは、主人公の日岡は新人の警察で、ヤクザとの関わりが強い刑事である大上(ガミさん)とコンビを組むことになります。大上は多くのヤクザとの交友を持ち、彼らから一目置かれている存在です。そんな上司と行動を共にする日岡は、大上の常軌を逸した行動の数々に狼狽しますが、徐々に成長していきます。そんなある日、ある事件から暴力団同士の抗争が起きます。果たして、大上はどのような行動に出るのか?また、日岡は何を目にするのか?
数々の人物の思惑が交錯し、見どころ満載です。
この小説が一躍人気なった要素として
- ガミさんの人間としての魅力
- 章の初めにある所々削除された日岡の日誌
- 頭から離れない広島弁
- ヤクザの世界を完璧に書ききっている
- 衝撃の最後
が挙げられます。
「超」が付くほど面白かったです。
『凶犬の眼』柚月裕子

ガミさんの教えを受けた日岡が待ち受ける壮絶な事件の数々は前作以上の面白さ
『孤狼の血』(上の章を参考)における暴力団の抗争後、日岡は田舎の駐在所に飛ばされます。前作とは打って変わり平和な時間が流れ、この状況から一体何が起こるのかワクワクさせられます。ある日、日岡は度々登場して本作の重要な場所の小料理屋に訪れた際に、日常が180°変わることになります。なんと、日本最大の暴力団組長暗殺の首謀者と出くわすのです。田舎にあるタダの駐在所に勤める日岡は、またまた暴力団の陰謀に巻き込まれていくのです。
この小説で一番グッきたのは、その首謀者の人間としてのカッコよさです。もちろん、裏社会の人間ということを忘れてはいけませんが、それでも頭のキレの良さ、約束を絶対に果たす心構え、芯の強さと普通の人にはない光るものがあったからです。
ストーリーの素晴らしさに加えて、魅力的な人物を描く業の高さにも感服とさせられます。
本作を読んでしまったら、絶対に次作の『暴虎の牙』を読むことになるでしょう。これは必然です。なぜなら、日岡の姿とヤクザと警察が複雜に絡みあう世界観をもっと見たい! という心が力強く湧いてくるからです。
こんな小説を世に生み出すなんて、筆者の柚月裕子氏はこれから目を離せません。
『死神の精度』伊坂幸太郎

死神の人間を的確に客観視して得た知見の数々がユニークだが、心に残る。また、雰囲気の良い死神なので一般的なイメージとは裏腹で、引き込まれた。
伊坂幸太郎の世界観に外れはない! と改めて感じた作品でした。
本小説の設定は、死神は1週間上から指定された人間を調査します。「可」と判断すればその人物は突発的なこと(事件や事故)で命を落とすことになります。
ここでは、6人の人物を主人公(死神)千葉は調査する、短編集です。「恋愛」「ミステリー」「ヤクザ」「家族」などテーマが異なり、十人十色な人生を目の当たりにしていきます。
本小説の面白いポイントは何と言っても死神の言動です。
- 音楽が大好きというレベルを超えるぐらい大好き
- 雪男は雨男のように、その人物がいればよく雪が降ることを指すと考えているなど、ズレている面が多数
- 人間が作ったもので最も醜いのは「渋滞」と独自の理論を持つ
- 人間の愚かなポイントが的確(是非本小説を読んで欲しい)
などです。
私が特に印象に残っている言葉は

人生なんていつ終わってしまうか分からないんだから、話は交わせる時に交わしておくべきだ。
人生はいつ何が起こるのか予測不可能です。しかし、多くの人はまさか自分が事故に遭う・事件に巻き込まれる・病気になるとは考えていません。後悔しない生き方の実現には、「今日という日は人生最後の日だ!」ぐらいの意気込みが必要でしょう。死神・千葉の上記の言葉は行うのは難しですが、まさに見習うべき考えでしょう。
人生について・時間についてのメッセージが込められた小説でした。
『暴虎の牙』柚月裕子

これが、超傑作『孤狼の血』『凶犬の眼』を締めくくる小説だ!
『暴虎の牙』では、第一人称での視点が前作、前前作の警察官大上・日岡に加えて、まさに暴虎である男が大部分を占めます。
その男は「沖虎彦」と言い、愚連隊の呉寅会のトップとして、広島で暴力団の取引現場を荒らしていく、破天荒な振る舞いをしていきます。
「世の中弱肉強食。舐められたら終いじゃ。」という子供時代の壮絶な経験から得た考えの元、行動を起こしていき、外道に牙を剥いていきます。
そんな沖は堅気に迷惑をかけない、呉寅会は一匹狼で自らの力で事を起こしていくことから、あの大上に目を付けられ(可愛がられ)ます。
本小説の個人的注目ポイントと凄い点は
- 沖率いる呉寅会は、どのような運命を迎えるのか?
- 沖の過去や仲間との繊細な人間関係について
- 大上・日岡の勇姿
- 一度読み始めたら、牙に心を噛みつかれる面白さ
でしょう。
とにかく、相手との関係から生まれる心情を描くのが見事です。ちょっとした遠慮、見栄を張る、眼差しから人物を臆する姿・心情、盃を交わした兄弟同士の会話などから、対象の人物の内面から外面までありありと浮かんできます。
『孤狼の血』『凶犬の眼』『暴虎の牙』と恐ろしさを帯びる生物+その所有物、というタイトルセンス抜群で、内容も読者の「血」を騒がせ、鋭く力強い「眼」で捉えられ、「牙」が心に食い込む、と類を見ないシリーズでした。
当分、広島弁とここで繰り広げられた警察・裏社会の景色は忘れられないでしょう。
『正欲』朝井リョウ

多様性とは? マイノリティを慮るとは? 現代に鋭いメスを入れる衝撃作!
正直驚きを隠せない。そんな小説でした。
こんなことは初めてですが、あらすじは省略します。なぜなら、あらすじを紹介することが出来ないからです。
強いて言うなら、なんの繋がりもなかった複数の人物の物語がローテーションする形で話が進行していく、としか書くことはできません。一体彼らに何が起こるのか、本当に目の当たりにして欲しいです。
高度で巧みな文章を朝井リョウは操り、読者の魂に「多様性」についてを切り込んできます。
多様性、マイノリティの尊重の重要性が世にかなり浸透してきた時代に生きる全日本人必読書だと感じた!、本当に。
最後に、自分とは嗜好(思考)の異なる人を理解するためには、どうしたら良いのか?
その人と話し合う、理解しようと努力するという、よく耳にする単純な行動だけでは理解することは難しいでしょう。
では、一体どのような行動を執れば良いのでしょうか?
私は、最適解を見つけることは中々難しく、単純なものではないと感じさせられました。