2021年12月に読んだ文庫本・小説

オススメ紹介

『表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』若林正恭

「こんな一人旅が出来たら、絶対に楽しいだろうな」

「人生における大切なコトを教えてくれる紀行文だ」

と強く感じさせてくれた若林正恭の海外一人旅を綴った紀行文。

失われた20年を経て「勝ち組「負け組」「スペック」と人間の質や成果が重要視される時代に居心地の悪さを感じた著者が、日本と価値観が全く異なるキューバ・モンゴル・アイスランドを旅して感じたことが書かれていました。

現地で体験したスベらない話・出来事に加えて、考えたことや考えの変化などが記されています。

特に、現地の人の姿や生活の雰囲気を目の当たりにすることで湧いた居心地の悪さを解消する若林正恭の考えには心を動かされました

相手の収入といったスペック込のコミュニケーションは、海外で見た相手の成果を重視しない「血の通った関係」におけるそれと比べて、暖かさ・和やかさは段違いに少ない。といった事実を一人旅は教えてくれていました。

今一度、人生における幸せとは権力を持ち・スペックが高く勝ち組であることが大切なのか?

著者の紀行文を読んで、幸せになるにはそれ以外にもった重要なことがあると気付かされました。

『楽園のカンヴァス』原田マハ

表紙にはアンリ・ルソーの『夢』がドンと載っています(下の写真をご覧ください)。

ちなみに、アンリ・ルソーとは19世紀末のフランスの小説家で、あのピカソに影響を与えた画家でもあります。

この小説はアンリ・ルソーをこよなく愛する2人の人生を変えた7日間のお話です。

一人は若い頃に芸術界において名のしれた研究者で、今は一線遠のき倉敷の大原美術館で監視員をする早川織絵。もう一人はニューヨーク近代美術館のキュレーター、ティム・ブラウンです。

彼らが出会ったのは、アンリ・ルソーの『夢』に似た作品を持っていた富豪が呼び寄せたためです。目的はその作品が本物かどうかをルソーについて書かれた物語を7日間かけて読んだ上で判定し、より良い講評した方にその絵の取り扱い権利を譲る、というものです。

その物語から分かるアンリ・ルソーの隠された生活、『夢』に酷似した作品の正体とは、また裏で蠢く陰謀者など壮絶な1週間となります。

この小説を読んだら、画家が命をかけて紡いだ絵画(カンヴァス)により惹かれるでしょう。アンリ・ルソーの生涯を見て、私は強くそのように思いました。

美術館に訪れた際に早川織絵が父から言われたいた言葉が妙に印象的でした。それは

「人混みの中でも友達は見つけられるのだから、美術館に多数の絵のどこかに友達がいると思えば絶対に見つけられる」

といった言葉です。「友達探し」と捉えて今度美術館に行こうと思います。

個人的にまずは大原美術館、いつの日かにニューヨーク近代美術館、バイエラー財団に訪れたいです。

『楽園のカンヴァス』は美術を題材とした小説の中で最高の1作でしょう。

『そして、バトンは渡された』瀬尾まいこ

映画化されて大ヒットしたということで、この機会に原作を読みました。やはり、本屋大賞受賞なだけ心に残る感動的な作品でした。誰が読んでもそう思うこと間違いなしです!

主人公の優子は現在高校生で、3人目の父・森宮さんと二人暮しです。森宮さんは東大出身で一流企業努め、清潔感の漂う男性ですが少しズレている面白い人です。彼は血はつながっていませんが優子のことを本当の親以上に大切にしています。

優子の本当の母は亡くなり、父は海外転勤を機に離れ離れになったことで家庭事情が転々と変わります。しかし、直感に反しどの親からも大切に扱われて、良好な生活を過ごします。

そんな優子と森宮さんとの生活を描きます。

個人的に心に残っているシーンは森宮さんと共に家で他愛のない会話をしながら夕食を取るシーンです。家族で食卓を囲むことは最高の平和・幸せではないでしょうか?

私はそう思っているので、血はつながってなかろうが森宮さんとの夕食の場面は読んでいる私まで幸福感を享受したのでしょう。

もう一度書きますが、本小説はどなたが読んでも深い感動を味わえます。読書の年納めに。

『グラスホッパー』伊坂幸太郎

殺し屋シリーズ(全3作品グラスホッパー・マリアビートル・AX)の1作目です。個人的な話ですが、AXを読んでおり、いつかは読みたい思っていました。

伊坂幸太郎氏の小説は独特な世界観と華麗な描写、個性的なキャラクターとその会話内容の面白さなどがとても好きで、私の好きな作家の上位に入ります。

グラスホッパーは3人の登場人物が順々に第一人者となり、話が進んでいきます。妻の復讐を企み、それといって特に能力を持たない鈴木。ナイフ使いの殺し屋・蝉。特別な能力を持って、ターゲットを自殺に追い込む自殺屋の鯨。

彼らが謎の押し屋(ターゲットを押して車や電車に轢死させる)を巡って、物語は進んでいきます。

全体的に暗く陰鬱なイメージがありますが、とにかく面白いです。特に、ある人物は敬愛するジャック・クリスピンという男の言葉を乱用するのですが、その言葉とそれを使ったやり取りがお気に入りです。是非注目して下さい。

伊坂氏は「殺し屋」という、いかにもフィクション作品にうってつけの存在を用いて、見事に読者をその世界観に引き込んでくれます。

いやぁ〜、『グラスホッパー』の世界は中々忘れないでしょう。こんなに面白い殺し屋小説を読んでしまったら、もしかしてこの事件には私たちの知らない闇の業界が関わっているのでは?と思ってしまうことでしょう。

『マリアビートル』伊坂幸太郎

「この小説…..面白すぎる!」ということで、2021年で一番没頭した小説の1つです。

殺し屋シリーズ(全3作品グラスホッパー・マリアビートル・AX)の2作目で、初回のグラスホッパーに比べて格段と深くて面白く、殺し屋たちの思いが複雑に交錯していきます。先が読めないとはまさにこの小説の次の展開を予測することを指すのでしょう。

本小説は500ページ以上ありますが、なんと、ほぼ東北新幹線車内での出来事となります。主な登場人物は、
果物の蜜柑と機関車トーマスが大好きな檸檬のコンビ
運が悪すぎる天道虫・七尾
見た目は優等生、中身は悪魔の中学生・王子
息子を重体にさせた王子へ復讐を企む木村

です。その他にも前作に登場した人物も現れます。

彼らは一体何が目的なのか? 何がしたいのか? それぞれの思惑が一度に集結した新幹線内の殺し屋の運命を変えていきます。

特に面白いことは天道虫・七尾の運の悪さです。この要素が先の展開を読めないようにし、七尾自身を含めて殺し屋たちを狂わせます。

また、機関車トーマス好きの檸檬の言動も最高です。何でもかんでも機関車トーマスのキャラクターが出てきます。

一番恐ろしいのは王子。中学生にもかかわらず、心に悪魔の親分が宿っているのではと感じさせます。加えて、頭がキレるので体格は劣っていますが強い存在です。

以上のような、個性豊かなキャラクターが集合している新幹線で起こる事件は全てが予想超えてくるでしょう。

複雑で痛快でと、最高でした。

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