本書の情報:マイケル サンデル(著) 鬼澤 忍 (翻訳)『実力も運のうち 能力主義は正義か?』(2021.4 早川書房)
『これからの「正義」の話をしよう 』や『ハーバード白熱教室講義録+東大特別授業』の著者でハーバード大学教授のマイケル・サンデル氏の本です。
「能力主義」(=能力を基準として人物評価をする)についてあなたはどう感じるでしょうか?
世の中のシステムは能力が高い人ほど社会的貢献度が高いので、その分給与も高い。
その人の能力が高いのは人並み以上の努力をしたということなので、能力主義は妥当だ。
と思うでしょうか?
本書では「能力主義」を数多くのデータや事例に基づいて、深く考察がなされていきます。
能力主義について
能力主義の考え
地球一体化した社会の勝者は成功は自力で獲得した
これは正しいのか。もしくは、能力主義の思い上がりなのか。
ここで、高所得者(=社会的に成功している・能力が高い人)への課税に対する意見を紹介します。
能力主義的考えの「成功は自力で獲得した」に則れば、課税は不当だと主張します。
一方で能力主義者でなく課税に賛成に人は、成功は自分の力だけで獲得したのではない。他人がその貢献を評価した、良い先生が指導してくれたのだ。コミュニティに礼をする必要がある。よって、多額のお金を稼ぐ人への富の再分配を目的とした課税は正当である。
このような能力主義の考えは、勝者には驕りを、敗者には屈辱・怒りを、また不平等の拡大にも繋がります。
不平等が拡大した社会で、下位層のエリートに対する怒りが民主主義を危機的状況に追い込んでおり、能力の問題は喫緊の課題なのです。
例として、トランプの当選、イギリスのEU離脱はグローバリゼーション(=地球一体化)に対する怒りの評決だと書かれています。
出世のレトリック
社会人にとって肝要な出世のレトリックと能力主義が結び付きます。
バラク・オバマ氏は「どんな立場にいても、才能と努力が許す限り出世できる」と頻繁に語りました。
しかし、この言葉にマイケル・サンデル氏はデータを用いて反論しています。(以下、要約)
オバマ氏の発言はあたかも事実のようだがこれは希望に過ぎない。アメリカでは貧困層出身の人が富裕層まで登りつめる人はほとんどいない。ましてや、中流階級にも到達しない。つまり、アメリカン・ドリームの立身出世を体現する人は非常に少ない。能力主義を願望の対象と捉えるか。事実と捉えるか。
学歴偏重主義
能力主義の悪い特徴として、学歴偏重主義があります。容認されている最後の偏見だと言います。これは能力主義的見解が社会に浸透していることを表しています。
例えば、大学入試は一種の能力選別装置です。一流大学に入学することでその者の能力は保証され、就職にも大きく関与します。ですが、一流大学に入るためには高校時代に猛勉強しなければなりません。この期間は不安に駆られた競争を続けるので、精神的苦痛が大きく、自尊心が傷つく人の割合が増えている研究から明らかになっています。
また、学歴が高いからといって判断能力が高いとは限りません。学歴だけでその者の能力を測ることは危険なのです。
本書を読んで
本書の結論から、もし自分が成功できたのなら、自分の才能と努力のおかげだと考えるのではなく、この才能を活かせることができる社会に生まれた運の良さ、自分の力だけではこれまでやってこれなかったことを認識し謙虚な姿勢を持ちたい
と思います。