本書の情報
マイケル サンデル (著) 鬼澤 忍 (翻訳) 『これからの「正義」の話をしよう』(2011.11 早川書房)
「正義」について本気で向き合うことができる本。
本書は約350ページで、1ページあたりの文字数が多く中々ボリュームがあります。そのため、「正義」を様々な立場・哲学者の考えから論じていきます。具体例として、功利主義・リバタリアン・カント・アリストテレスなどです。
取り上げられた議論として、代理母出産・同性婚の是非、 兵士の集め方である徴兵制・身代わり可の徴兵制・志願兵制のどれが公平化なのか? CEOの妥当な報酬とは? 金融救済策などの複雑な問題を「正義」にスポットライトを当てていきます。
私の力量不足かもしれませんが、難解で生半可に読むと本書の内容は完全に理解できないでしょう。ですが、その分本気で向き合えば、力になる「武器」を得ることができます。
著者は
正義と不正義、平等と不平等、個人の権利と公共の利益が対立する領域で、進むべき道を見つけ出すにはどうすればいいのだろうか。
(P40)
本書では以下の「正義」について考える3つの立場が書かれています。
幸福を最大にすることが大切と考える
→→判断は下しやすいが、弱者に厳しい
自分のものは自分が好きなように使える自由があると考える
→→高所得者への課税による富の再分配などの政府の規制に反対する
美徳を養い、共通善について判断する
どの立場においてもメリット・デメリットがあります。
イマヌエル・カントは人間はみな尊敬に値する存在と考え、
自由な行動 = 自分が定めたきまりに従って行動すること
←→
他律的行動 = 他人が決めた目的のため行動すること
とし、人間は自律的な行動できるから尊敬に値する生き物と説いています。
そこから、道徳的な行いかを判断するには動機を着目すれば分かるとし、正しい行いを正しい理由のために行う。つまり、定言命法に従って行動することが道徳的なのです。
カントは功利主義の幸福を最大化するという考えは仮言命法にあたるとし、功利主義者を批判しています。
次に、アリストテレス。
正義について考えることは問題となる対象の目的・性質に基づいて判断することとし、政治の目的は国の発展以外にも善良な市民を育てることも含まれる。つまり、道徳的な政治か?その政治行動は正義か?について考える議論は善良な市民の育成についての議論になるのです。
このように、多くの著名な哲学者は「正義」について向き合い自分なりの答えを出したり、他の考えに批判をしています。「正義」についての最適解を出すことはそう簡単ではないことが改めて分かります。
これからは何を持って「正義」とするのか、激動の時代をより良く生き抜くためにそれと本気で向き合う必要があるのかもしれません。